ぐりまの読書日記

読書が好きです。本の感想など。

『発現』阿部智里さんの新ジャンル

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先日「王様のブランチ」で紹介されていた、阿部智里さんの新刊、『発現』。
気になって、早速読んでみた。

阿部智里さんといえば、言わずと知れた人気ファンタジー、「八咫烏シリーズ」の作者である。
『RDG』シリーズのスピンオフ作品の解説の中で、「荻原規子クラスタ」であることを公言していたり、幼少期に読んでいたのがハリポタシリーズだったりと、なんだか自分と同世代な雰囲気が漂ってくる作家さん。
八咫烏シリーズ」を読んでいるときも、「あ、ここはもしかしてあの作品の影響を受けてる?」なんてことを想像してしまう場面が多々あった。
八咫烏」は、設定としてはコテコテのハイファンタジーなんだけど、全巻に渡って、緻密な伏線やらどんでん返しやらがたくさん仕掛けられており、
「わー楽しい冒険物語だー」と思って読んでいたら、けっこうシビアな結末が待っていることが多くて、足元を掬われたような気持ちになったものだった。

そんな、ファンタジーだけどミステリ色も強い作品を書いてきた阿部智里さんが、「八咫烏」の後に初めて挑んだ、「ファンタジーではない」作品が、この『発現』である。

あらすじ
平成30年、村岡さつきは、変わり果てた兄の姿を見て愕然とする。兄は、たびたび現れる少女の幻覚のせいで憔悴し、可愛がっていた娘までも遠ざけるようになっていた。
やがて、同じ幻覚がさつき自身にも見えるようになり…。
一方、昭和40年、山田省吾は、兄の飛び降り自殺に心を痛めていた。愛する妻と娘と三人、幸せに暮らしていたはずの兄が、なぜ突然自殺しなければならなかったのだろうか。原因を探り始める省吾…。
平成パートと昭和パート、一見何の関わりもない二つのパートが、作品の中で交互に登場する。
二つの物語が一致する瞬間、真相が現れる…!


あらすじとしてはこんな感じ。

重たい中身に反して、文章の語り口は、「八咫烏」と変わらず鮮やかで読みやすい印象だった。良い意味で軽くて、引き込まれてさくさく読み進められる。

謎解き自体は、別にものすごく意外性のある真相にたどり着くわけではないし、二つの時代を交互に描く構成も、緻密ではあるけど、それほど目新しいものではない。
ただ、真相が明らかになった後、最後の最後、予定調和で終わらない感じはさすが阿部智里さんらしかった。
全部解決して「めでたしめでたし」とはならない。座りの悪い読後感だけど、きちんと落としどころはつけている。
八咫烏」でもよく見られた、善悪がひっくり返るというか、よりどころがなくなってしまうようなこの感覚は、個人的にはそんなに好きではないんだけど、
本作の中では、訴えたいことを効果的に伝えられていたと思うし、作者の本領発揮という感じだった。

作者へのインタビューを読んで、「歴史の中の出来事をリアルに書く」というのは、たいへんなことだと感じた。
太平洋戦争のような、体験された方が生きておられることについてだと、なおさら、適当なことは書けないし、真摯に向き合って取材しないといけないんだな、と。
そこにあえて挑戦した点で、また一歩作者の幅が広がった作品だったと思う。