ぐりまの読書日記

読書が好きです。本の感想など。

新刊を待つもどかしさと、楽しさと。 〜なかなか完結しないシリーズ〜(前編)

シリーズものの本をリアルタイムで追いかけるのって、
楽しいけど、続編を待つ間がもどかしくて辛いですよね。

割とコンスタントに新刊が出るシリーズならまだ耐えられるけど、
中には5年に一冊くらいの頻度でしか進まないシリーズもあったり、
いつ続編がでるかわからないまま、十年以上も凍結しているものもあったり。

でも、待つのが辛い分、新刊がやっと手に入った瞬間は、踊り出したくなるくらい嬉しいし、本を開くのが本当にわくわくします。

ということで、今回は、いつ完結するかわからない、けどめちゃくちゃおもしろくて続きが気になるシリーズたちをご紹介!

みなさんも、この機会に、続きものの本の沼にハマってみませんか??




チョコレートコスモス』三部作(恩田陸
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美内すずえさんの少女漫画、『ガラスの仮面』をご存知の方は多いだろう。
無名の少女北島マヤが、演技の才能に目覚め、ライバルと切磋琢磨しながら、伝説の舞台「紅天女」の主役を目指す物語である。

そして、直木賞作家の恩田陸さんも、ガラスの仮面の大ファンであることを公言されている。

そんな恩田陸さんが、ガラスの仮面へのオマージュ的な小説として書いたのが『チョコレートコスモス』だ。
芝居を始めたばかりの天才少女、佐々木飛鳥と、演劇界のサラブレッド、東響子たちを描く物語で、
彼女らが舞台での演技やオーディションに挑む場面が、小説の大半を占める。
芝居の場面の臨場感は最高、ハラハラドキドキ、言うことなしの面白さで、一度ページを開いたら一気読みは必至の一冊。

さて、私が『チョコレートコスモス』を読んで数年後、文庫版が発行されたのだが、そのあとがきを見てびっくり。
なんと、『チョコレートコスモス』は三部作の第一作目で、続編の『ダンデライオン』を執筆中だというじゃないか!

佐々木飛鳥と東響子の才能のぶつかり合いがまた読めるなら、ぜひ読みたい!!楽しみ!!



…と、思って、『ダンデライオン』の刊行を待っているのだが、その後何の音沙汰もなく、10年くらいは過ぎてしまった。

ダンデライオン』は、「本の時間」という雑誌に連載されていたようなのだが、「本の時間」が休刊になったところから、作品の執筆も止まっているらしい。
なんということ。

2作目でこんな調子ということは、もし、運良く『ダンデライオン』が刊行されたとしても、3作目まできちんと完結する望みなんてとても薄いような気がする…。
ついでに言うと、本家『ガラスの仮面』も49巻のとても気になるところで止まってるし。

それでも、いつか続きが読めるかも!という望みは捨てられていない。
せめて今書かれているところまででいいから、『ダンデライオン』が読みたいな……。



『海が聞こえる』シリーズ(氷室冴子
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2番目にご紹介するのは、いくら待っても、もう完結することはないシリーズ、『海が聞こえる』。

作者の氷室冴子さんといえば、『なんて素敵にジャパネスク』などで有名な、少女小説作家さん。

氷室さんの作品は、そこまでたくさん読んだことがないので恐縮だが、
少しだけ読んだ感触でいえば、プロットが練られてテンポの良い、「よくできた小説」という印象だった。

そんな氷室さんが、それまでの作品とは少し方針を変えて、プロットやお話の構造にこだわらず、思い浮かんだシーンを書きたいように書こう、と思って書いたのが『海が聞える』らしい。


高知から上京してきた大学生の杜崎拓が、友人との電話をきっかけに、高校時代の出来事を振り返るところから、物語は始まる。

東京から、拓の通う田舎の高校に転入してきた、美人で気安く周囲と馴れ合わない女子、武藤里伽子。
お人好しの拓は、ひょんなことから、里伽子のある「計画」に付き合わされることになる。
また、里伽子のことが原因で、親友松野との関係にも変化が訪れ…
というお話。

読んでみると、何か劇的な出来事とか、「このエピソードは、この結末のために必要な伏線だったんだ!」とか、そういう展開があるわけではなく、
印象的な場面がふっと現れては、また別の場面に切り替わって、というような感じで進行していく。

一つひとつのエピソードも、変に美化されておらず、身近にありそうな下世話な話や、「なんじゃそりゃ」と気が抜けてしまうような場面も多い。

それがまたいいのだ。

実際、青春って、何気ない出来事の積み重ねだったりすると思う。
昔はものすごく嫌い合っていた人同士も、久々に会ったら、何のきっかけもないのに打ち解けて話せたり。
傍から見れば、なんてことのない些細な出来事や、どんな意味を持つのかわからない雑音のようなことが、あとから振り返れば自分にとって、かけがえのない意味を持つ時間になっていたり。

そういう人生の一コマ一コマが、主人公杜崎拓の語りによって、おおらかに描写されているのが素敵だと思う。
ときおり、大事なところで飛び出す土佐弁も、いい味を出してる。


ちなみに、私の地元の図書館にはなぜか、続編の『アイがあるから』だけが置かれていて、
そのせいもあってか、個人的にはどちらかというと一作目より二作目のほうが思い入れが強い。

二作目では、舞台はすっかり東京での大学生活に移る。
相変わらず拓は里伽子に振り回されるが、ちょっとずつ二人の仲は近づいていき、それにほっこりさせられる話だった。


さて、その『アイがあるから』のあとがきで、氷室さんが「あと一作、彼らにお付き合いください」と書いていることから、
もう一作で『海が聞こえる』は完結する予定だったのだろう。
彼女が51歳の若さで、肺がんのため亡くなられたのでので、それももう叶わないことになってしまったけれど…。


杜崎拓は、どんな進路を選ぶんだろうな、とか、
里伽子とも、なんだかんだで仲良くやっていくんだろうな、とか。
彼らの未来を想像すると、とても温かい気持ちになるし、
だからこそ、完結編が二度と読めないのは、とても惜しい。

描かれなかった、彼らの未来に思いを馳せながら、私は今も氷室冴子さんの夭逝を惜しんでいる。

   ※   ※   ※

なかなか完結しないシリーズ、後編へ続く〜