ぐりまの読書日記

読書が好きです。本の感想など。

『日日是好日~「お茶」が教えてくれた15のしあわせ~』森下典子 感想

f:id:greema1119:20200211064506j:plain

私は「茶道」をやったことがない。
今のところ、習う予定もない。
だから、「茶道」というものがどんな
ものなのか、ほとんど知識が無い。
お作法とかが面倒くさそう、というのと、お金持ちのお嬢様や奥様がする習い事、みたいなイメージくらいは、辛うじて持っていた。

そんな私が、先日何気なく、茶道についてのエッセイ『日日是好日』を手に取った。
まえがきを読んでみてびっくりした。

自分が無意識に求めていたもの、はっきり言葉にはできないけど感じていたことに、
今まさに出会っているという気がしたからだ。

まえがきの、「お茶」についての説明の中で、例としてあげられているのが、『道』という映画である。
筆者森下さんは、小学生で初めてこの映画を見たのだが、そのときは、暗くて退屈な映画だという印象しか持たなかったらしい。
それが、大学生になり、再び映画を見て、「こんな映画だったのか!」と、感動した。
そして、人生の中で仕事や失恋など、様々なことを経験してから、再度『道』を見た筆者は、「こんなシーン、あったっけ?」とまたまた驚いた。
前回はまだ見えていなかったシーン、聞こえていなかったセリフが、たくさんあったのだ。
『道』は、森下さんが見るたびに、別のものになっていった。

世の中には、「すぐにわかるもの」と「すぐにはわからないもの」がある、と森下さんは言う。
「すぐにわかるもの」は、一度通り過ぎればそれで良いが、
「すぐにはわからないもの」は、何度も繰り返して初めて理解できることがある。

「お茶」も、そういうものらしい。

何年も、何十年も繰り返して、あるときふと、季節の移ろいを感じられるようになる。
作法の意味を悟る。
もてなす側の心遣いに気付く。
少しずつコップにたまっていた水が、ある瞬間に一気にあふれ出すように。


この内容に、私は胸を打たれてしまった。


実際、世の中には、すぐにわかる面白い本や、漫画や、映画などがあふれている。
でも、そんなものばかり追い求めていても、結局はすぐに飽きてしまって虚しいだけだな、となんとなく感じていた。
「道」という映画のように、はじめは意味がわからなかったとしても、何度も通り過ぎるうちに、歳を重ねる毎に、その面白さや奥深さに気付く。
そんな「すぐにはわからないもの」を大切にできる人生の方が、ずっと満ち足りていて、素敵だな、と、まえがきを読んで、思ったのだ。
このまえがきでの感動に包まれながら、一気に十五の章を読み進めた。


日日是好日』で描かれるのは、森下さんが、二十年余りのお茶とのつきあいの中で感じたこと、気づいてきたことだ。
気取らない平易な文章で、内容がすっと心に入ってくる。
それほど大げさなことや悲しいことが書かれているわけではないのに、読みながらなぜか、ふと涙が出てくることが何度もあった。

これから、自分が「お茶」をやるかどうかはわからないけど、機会があれば、やってみるのも素敵かもしれない。人生が更に豊かなものになるかもしれない。
「お茶」を知らなかった私に、そんな風に思わせてくれた本だった。