ぐりまの読書日記

読書が好きです。本の感想など。

『本と鍵の季節』米澤穂信 感想

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米澤穂信の新刊を読んでしまった。
期待を裏切らない面白さと、予想通りのほろ苦さ、ますます磨きのかかった読後感の割り切れなさ。
さすが米澤穂信だなーと思う。

この本は、高校2年生の堀川次郎と、松倉詩門の話だ。二人は図書委員で、そこそこ気の合う友人である。
少しお人好しなところのある堀川のせいで、図書室にはたびたび厄介事が持ち込まれる。
あるときは、開かない金庫の番号当て、またあるときは、題名のわからない本探し…
頼まれごとを引き受けてしまう堀川と、一歩引いた目で物事を見る松倉。
この二人が、なんだかんだ言いながら一緒に謎を解いていく物語である。

堀川と松倉は親しいけれど、クラスメイトとか、部活が同じとかではなく、図書委員同士という、近すぎも遠すぎもしない関係性が心地よい。
そして、二人とも頭が切れて、高校生にしては博学で、一を口にするだけで、八か九くらいの事がらを共有できるくらいの仲なんだけど、
必ずしも十を理解しあえるわけじゃなく、
それぞれの価値観というか、謎へのアプローチの仕方は、全く異なるところもあって、
二人の間には、根本的にわかり合えない部分も時に存在する。
この距離感も絶妙。

ダ・ヴィンチ」に、米澤さんと星野源さんとの対談が載っていて、
それによると、米澤さんは本作を、「よくあるデビュー作のリバイバルにはしたくなかった」と言っている。
「ハードボイルドを意識した」とも。
実際、『本と鍵の季節』の主人公は高校生達。登場する謎も、一見すると彼らの周囲で起きる日常の謎のようで、
そこだけ見ると、確かに「古典部シリーズ」と同じ。

でも、彼らが遭遇する謎は、すべて一筋縄では解決しない。
どの謎解きにも、日常の枠に収まらない不穏さが潜み、それが表面化する場面はとてもスリリングだ。
そして、堀川と松倉の関係も、ただの「友情」とか、「青春」とかできれいに説明できるようなものではない。
彼らは理解しあっているようで理解しあえず、時に片方を妬み、見栄を張り、相手に嘘をつくこともある。
それでいて、読み終わった後には、「男の友情だなー」という感想がしっかり浮かんでくるのだ。
彼ら二人の男子の物語には、千反田えるみたいな女子たちが入り込む余地は確かにあまりなくて、
なるほど、これが米澤穂信の「ハードボイルド」かあ、と思わされてしまった。

ラストは、米澤作品らしく、これまたすっきりしない終わり方。
これはこれでありなラストかなあとも思うけど、やっぱり二人の物語の続きが読みたいなあと早くも思う、今日このごろだった。