ぐりまの読書日記

読書が好きです。本の感想など。

『巴里マカロンの謎』米澤穂信 感想〜相変わらずな小鳩君と小佐内さん〜

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あらすじ
小鳩君と小佐内さんは、互恵関係に従い、ある日の放課後、名古屋のスイーツ店までやってきた。
小佐内さんのお目当ては、パリで修行したというパティシエのマカロンなのだが、なんと、小佐内さんが3つ頼んだはずのマカロンは、二人が目を離したすきに、4つに増えていた!
いったい誰が、なんのためにマカロンを増やしたのか…?
そして、小鳩君はやっぱり推理を始めてしまう…。
今日も小市民を目指す二人を描く短編集。


ある日、本屋さんで何気なくおすすめ本コーナーを見て、小市民シリーズの新刊を発見してしまった。
片山若子さんの表紙イラストの可愛さに目を奪われ、金欠だったにも関わらず即レジへ向かってしまう私。
栗きんとん事件は上下巻だったけど、この新刊は一冊だけらしい。というか、「冬季限定」の文字がないので、スピンオフ的な短編集らしい。
買った後にそんなことに気づいて、ちょっとほっとしたような、がっかりしたような。

『秋季限定』に関しては、わりと刊行されてからすぐ読んだので、「11年ぶりの新刊」 という言葉には軽くショックを受けた。
もうあれから11年も経つんだ……!
夏季限定の衝撃のラストを経て、二人は秋季限定で元サヤ(?)におさまるのだけど、
それを読んでほっとしたのがつい一ヶ月くらい前のことのように思える。
年をとるって怖いなあ…。

本書には、名古屋の女子中学生、古城秋桜が登場する。
本書の短編の中で、彼女が唯一出てこないのは、「伯林あげぱんの謎」だが(ちなみにこの短編では小佐内さんすら冒頭にしか出番がない)、
そんな「伯林あげぱんの謎」も、ラストにしっかりつながっており、本書収録の4つの短編は古城秋桜にまつわる緩やかな連作となっている。

さて、小佐内さんと小鳩君だが、「狼」の気質や、「どこにでも首を突っ込みたがる」性癖は、あんまり直せていないようで、
細かいことを観察して謎をときたがる衝動を抑えきれてない小鳩君や、発想が尾行だの待ち伏せだの、いちいち不穏な小佐内さんには、相変わらずだなあとニヤニヤさせられてしまった。

そんな、11年ぶりでもあまり変わらない二人だけど、
「紐育チーズケーキの謎」や「花府シュークリームの謎」では、インターネット系の話題が、わりと大きく関わってきていて、
そこは時代の流れなのかなあと思った。
もちろん、11年前でも、中高生がネットにアクセスすることが、それほど難しかったわけではないだろうけど。

小鳩君も小佐内さんも、自分のお菓子をだめにした人に対して、直接手はくださなくても報復の道を残したり、
ある人物からの、おそらくは傷つく覚悟のないまま行ったた、真相を突き止めたいという依頼に対して、手段を選ばず応えたりと、
例によってクールな面を見せることが多かった一方で、
二人の可愛らしい部分もけっこう印象に残っている。
小佐内さんに推理を褒められたときの、小鳩君の「よせやい」という一言や、
小佐内さんの「それにはおぼやないわ」という決め台詞。
そして、スイーツを前にしたときの、小佐内さんのふにゃふにゃな姿は必見である。
そんな小佐内さんのことを、小鳩君はなんだかんだでよくわかっているのである。

さて、年下には意外と優しかった小佐内さんと小鳩君だが、
今回の一連の出来事を経て、二人の心境は、新たな局面を迎えそうな気がしないでもない。

次はついに「冬季限定」で完結かなあ、また10年後になるのかなあ…。
気長に楽しみに、次巻が出るのを待とうと思う今日このごろ。