ぐりまの読書日記

読書が好きです。本の感想など。

『りかさん』梨木香歩 感想

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あらすじ

縁あって、おばあちゃんのおうちからようこのもとへやってきた市松人形、「りかさん」は、とても気立てのいいお人形だった。ようことお話もできるし、かしこくてやさしいし、ほかの人形に込められた思いを写し出して、こじれた思いを解決してあげることもできる。それは、りかさんが今までの持ち主に、大事に慈しまれてきた証拠なのだ。
ある日、友達の登美子ちゃんのおうちで、不思議な汐汲み人形に出会ったようことりかさん。この汐汲みは、何かを秘めているようなのだがー。
ようことりかさん、そしておばあちゃんの日々を、美しく切り取った物語。



私が初めて『りかさん』を読んだのは、小学生の頃だったと思う。
『りかさん』は、図書館の児童書のコーナーに、もちろん児童書の顔をして置かれていたのだ。

今、新潮文庫版で読み返してみて、思った。
よくもまあこんな本を、児童書として扱っていたものだなあ!

使われている言葉が、ときにえらく古風だったり、難解だったりするのもさることながら、
話の内容が、人と人同士の微妙な「屈託」を描いたりしていて、とっても大人なのだ。
おばあちゃんやまわりの大人目線の、ようこを慈しむ心情が描かれている部分もあれば、
ようこがまわりの友達や大人を見つめるときの、「大人って不思議だなあ」というような感覚も、同じ次元で描かれていて、
物語の中にいろんな視点が混在して、独特の雰囲気が醸し出される。

そしてその中心には、りかさんが静かに存在している。
りかさんは、しゃべるお人形という、ようこの日常の中ではかなり不思議なキャラクターのはずだけど、
目立ち過ぎることもでしゃばることもなく、落ち着いたお姉さんとして、ようこをそばで見守っているのだ。

それはまさしく「女の子の強すぎる思いを吸い取ってくれる」いいお人形としての役割そのもの。

作中の季節は、ひな祭りの三月から、風わたる初夏にかけてで、
移りゆく季節の描写が、さりげなく丁寧に、要所要所に登場するのも好ましい。

もちろん、アビゲイルのエピソードとか、とても感動するところもあるけど、「いい話」と単純に割り切れる部分ばかりでもなくて、
りかさんが大人の女の人に抱かれるとにょきにょき角が生えてくるように、
女の人って優しいだけじゃなく、内に蛇を飼っていたりもするよね、というような要素も内包してる物語だ。

それらいいものも悪いものもすべて包み込んで、ようこはりかさんとともに大きく成長していくのだろう、と思わせられた。